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発酵の香りのアロマ効果

香りは人生の記憶を刻む

ふと感じる香りで、古い記憶がよび覚まされることがあります。マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』の中で、主人公が紅茶に浸したマドレーヌの香りで幼いころを思い出すシーンがあることから、「プルースト現象」とよばれています。食の場面でも、香りは深い記憶を呼び覚ますことがあります。
香りは五感の中で唯一、脳の深い部分に直接つながり、そこから記憶に関わる海馬につながっているのです。

発酵は「香り」の宝庫

ブルーチーズのようなクセのある香りから、ワインのような豊潤な香りまで、発酵した食べ物からは豊かな香りが生まれます。
国や地域よって発酵食品はさまざまあり、また家庭によっても味や香りが違います。発酵で生まれる香りは、まさに育った環境や思い出を呼び起こすもの。
微生物が有機物を分解して、特定の有機物を作り出すことを「発酵」とよびますが、そのときにニオイ成分も生成しています。乳酸菌は糖を分解して自らが活動するエネルギーを獲得しますが、そのときに乳酸を生成し、さらに香りの成分も作りだしているのです。
発酵、特に乳酸菌による発酵が生む香りには、どのようなものがあるでしょう。乳酸菌発酵の「香り」にフォーカスしてご紹介しましょう。

乳酸菌が生み出す香り

チーズやヨーグルトなど、ミルクを乳酸菌で発酵させたものには、さわやかな酸味を含んだ香りがあります。これは、乳酸菌がミルクの中のクエン酸や乳糖などを分解するときにできるものです。
ブドウが発酵してワインができると、芳醇な香りが生まれることはよく知られていますが、発酵後のワインをさらに熟成させることで、乳酸菌がワインの中のリンゴ酸と乳酸を発酵させるマロラクティック発酵という過程によって、さらに複雑でまろやかな香りが生まれると言われています。
また、ぬか漬けは、ぬか床に含まれる乳酸菌や酵母によって熟成された心地よい香りが生まれますし、ドライ発酵ソーセージや豆乳の乳酸菌による発酵や、野菜を乳酸発酵させたピクルスにも、素材の臭みを消し、上質な香りが生まれます。パンも乳酸菌による発酵によって、甘い香りや、香ばしい香りが生まれるなど、乳酸菌による発酵は、いずれも豊かな香りを生みます。

リラックス効果物質と乳酸菌発酵の香り

乳酸菌による発酵には、「GABA(ギャバ)」という物質が生まれるものがあることがわかっています。GABA(γ-アミノ酪酸ともいいます)は、アミノ酸の一種で、ストレス軽減作用があり、脳機能の改善や高めの血圧のコントロールなどの機能のあるうれしい物質です。
伝統的な発酵法によって作られた千枚漬けでは、乳酸菌の発酵によってGABAが多く生まれることがわかり、そういう千枚漬けには、さわやかな香りがあるという報告があります。
また、乳酸菌発酵で生まれた香り自体にも、リラックス効果があるという報告もあります。

思い出は豊かな香りとともに

香りに関する感覚は、食べてもよいものかどうかを判断するための、大切な感覚ですが、幼いころからの暮らしの中で育まれるものといわれています。民族によって、好む香りが違うのは、育った環境にある香りが、香りの好みを作っているからだとも。
香りの好みは、先天的なものではなく、育っていく中で、これはあぶない、これは汚い、これはおいしい、これはいい香りなど、まわりが教えることで作られているというわけです。
発酵食品、とくに乳酸菌を含む発酵食品は、腸の調子だけでなく、免疫機能や精神面などにもよいことがわかっていますが、その香りは感性を豊かにし、幼いころからのおいしい体験、楽しい食事の記憶を呼び覚ますものでもあるのです。

COLUMN コラム

チョコレートも発酵食品?! その語源は「苦い水」?!

カカオの実

カカオの実

2月といえばバレンタイン。街には、おいしそうなチョコレートがあふれます。ところで、チョコレートも発酵食品だって、ご存じでしたか?

チョコレートの原料が実るカカオの木は、中南米原産。カカオポッドとよばれるその実は、長さ20cmほどのラグビーボールのような形をしています。チョコレートの原料になるのは、その中にバルブとよばれる白い果肉に包まれた30〜40個ほどの種子、カカオ豆です。

メキシコの先住民たちは、この豆を煎ってすりつぶし、水と混ぜた飲み物を、「苦い水」を意味する「chocolatl(チョコラトル)」とよんで、疲労回復、滋養強壮などの薬として飲みました。チリペッパーやハチミツ、トウモロコシなどを混ぜることもあったといいます。この、「chocolatl(苦い水)」が「チョコレート」の語源になったのです。

現在、現地では、このカカオ豆を、まわりのパルプごと積み重ねてバナナの葉で包み、あるいは木箱に入れて自然発酵させます。そうすることで、酵母や乳酸菌、酢酸菌などの微生物のはたらきで、独特の味や香りが生まれます。発酵した豆は、天日で乾燥されて輸出されます。

輸入された豆は、焙炒することで、さらにカカオ豆独特の味と香りが生まれます。さらにそれをすりつぶし、ミルクや砂糖などを混ぜるなどして、熟成すればチョコレートの完成です。

チョコレートを食べるとき、「苦い水」とよばれていた南米の、バナナの葉の中で発酵して独特の香りを生んでいるカカオ豆に、思いを馳せてみてはいかがでしょうか?

乳酸菌といえば「シロタ株」