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トップ研究者に聞く腸内細菌と免疫のチカラ

慶應義塾大学医学部消化器内科教授 金井隆典氏

消化器内科医・内科学の研究者として、患者と向き合いつつ、腸内細菌や免疫※1について最新の研究をされ、さらに現在「コロナ制圧タスクフォース」の研究統括責任者でもある金井隆典先生に、腸内細菌や免疫について、お話をうかがいました。

※1 免疫:外から体内に侵入してきた病原菌や毒素、体内にできるがん細胞などの異物に対して、抵抗するはたらきのこと。体内には免疫にかかわるさまざまな細胞がある。

DNA解析※2から見えてきた腸内細菌の素顔

最近は、いろいろな場面で腸内細菌が注目されているそうですが、実際はいかがでしょうか。

いま、世界中のさまざまな分野の研究者が、腸内細菌に注目しています。
昔から食によって病気を予防する「医食同源」という言葉があるように、経験的に発酵食品がよいとか、腸内細菌が大切だとか言われてきました。ところが、腸内細菌については培養が難しいこともあり、なかなか研究が進まなかったんです。

2003年に、人間のDNAがもつ遺伝情報がすべて解読され、その手法をきっかけに、体内に共生している腸内細菌のDNA解析が進み、腸内細菌の研究が爆発的に進みました。
すると、これまで経験的に言われていた「腸内細菌の重要性」が、DNAという分子レベルで解明され、目からウロコというような研究が次々と生まれました。そして、腸内細菌のバランスの乱れが、消化器の病気だけでなく、肥満や糖尿病、動脈硬化やがん、さらにうつ病などにも関係していることがわかってきたんです。

腸内細菌は、我々と共生する「大切な仲間」です。ホモ・サピエンスが生まれた約20万年前から、腸内細菌と私たちは友好的な関係を築いてきました。ところが、ここ100年の近代化による食生活や生活様式の変化、つまり、腸内細菌にとって好ましくない環境の変化によってそれが崩れ、さまざまな病気が生まれているというのが現状です。

1人の人間の遺伝子の数は2万3000個ほどですが、その1人のおなかの中にすむ腸内細菌の遺伝子を合計すると、その100倍もの数になることがわかってきました。人間は腸内細菌の多様性という力を借りることで、複雑な機能をもって生きているのではないかと考えることができます。

じっさい、腸内細菌の状態がいいと心が穏やかになったり、悪いとイライラしたりすると考えられています。さらに、人間の記憶や理解、判断などにかかわる認知機能や、人を好きになるというような高度な脳のはたらきも、腸内細菌に関係があるのではないかともいわれ、ショウジョウバエを使った研究ではすでにそのことが証明されています。たとえば、腸内細菌の様子が似たもの同士だと、結婚生活もうまくいくのではないか、なんてことまで考えることができます。

※2 DNA解析: DNAがもっている遺伝情報を解明すること。DNAは、親から子へと遺伝情報を伝える遺伝子を含む物質で、細胞の中にある。

腸内には免疫細胞が集結している

私たちの全身にある免疫細胞の、70%もが腸内にあるといわれているそうですが、本当でしょうか?

70%というのは誰が数えたのかはわかりませんが、とにかく腸内には、膨大な量の、また多様な免疫細胞があります。
線虫という、小さな筒のような体をした単純な動物がいます。彼らの腸と皮膚には免疫細胞があります。人間も、かつては単純なつくりの動物で、進化の過程で、腸と皮膚から免疫細胞が生まれたと考えられます。ですから、腸内に免疫細胞がたくさんあることは不思議ではないのです。

免疫細胞は、外敵が侵入したときにたたかうはたらきがあります。腸内では、病原菌が入ったとき、それが感染症を起こしたりしないようにはたらく必要があるので、たくさんの精巧な免疫細胞が必要なんです。

最新研究で解き明かす腸と心身の関係

先生は、2018年には「皮膚—腸相関」※3、2020年には「肝臓—脳—腸相関」※4と、いずれも世界初の驚きの研究成果を発表されていますが、詳しく教えていただけますでしょうか?

「皮膚—腸相関」については、炎症性の腸の病気には皮膚の合併症が多いんですが、それは、なぜだろうと不思議に思っていたのです。そこで、皮膚と腸のトラブルが、相互に関係しているのではないかと仮説を立てて研究を始めました。
まず、抗生物質を過剰に投与され、ある種のビタミンが少ない状態で育てたマウスは、腸内細菌が乱れ、皮膚にトラブルが起きて毛が抜けることがわかりました。
次に、皮膚にトラブルを起こしたマウスは、もちろん皮膚にすむ細菌のバランスも乱れているのですが、離れて暮らす腸内細菌も乱れ、さらに、腸内の免疫細胞も乱れて腸炎になりやすいということがわかりました。
つまり、腸が悪いと皮膚も悪くなり、皮膚が悪いと腸も悪くなり、それには腸内細菌と免疫細胞が関係していることが証明されたんです。

「皮膚—腸相関のコンセプト」。健康な皮膚では、腸内細菌も腸内の免疫細胞も正常にはたらいているが、乾癬(かんせん)という皮膚の病気になるとそのどちらもが異常になることがわかった
画像:プレスリリースより https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2018/11/6/181106-2.pdf

「肝臓—脳—腸相関」については、昔から「病は気から」といわれ、たとえば、ストレスが多いと腸炎が起こるとか、食事が悪いと精神にも影響するとかいわれています。ところが僕らは、密接にかかわっているのは脳と腸だけなのかと疑問に思ったんです。
腸は6〜8mもあります。その長い腸の各部からそれぞれの情報をばらばらに脳に伝えたら、脳が誤作動を起こしてしまうのではないかと。

そこで注目したのが肝臓です。腸で吸収された栄養素は、ほとんどが肝臓に送られます。腸のさまざまな場所の情報も、まず肝臓に集められ、そこがインフォメーションセンターとして腸内の情報を脳へ伝えているのではないか。そして、脳から腸の免疫細胞などに指令を出しているのではないかと考えました。
そこで、「制御性T細胞」という「免疫の司令塔」ともよばれる免疫細胞に注目しました。「腸」の制御性T細胞は腸内で勝手にはたらくのではなく、「脳」からの精巧な指令で動いているということを解明したんです。

「迷走神経※5を介した肝臓—脳—腸管サーキット」。腸内の情報は肝臓に集められ、そこから脳に伝わり、脳から腸内の免疫細胞に指令が出されていることがわかった
画像:プレスリリースより https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2020/6/12/200612-3.pdf

これは「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)」にも、非常に重要な可能性が考えられます。COVID-19では、呼吸器だけでなく、消化管にも下痢などの病変が見られることがわかっています。また、「サイトカインストーム」といって、免疫システムが過剰に反応して重症化することがあります。
消化管が炎症を起こして腸内細菌が乱れ、何らかのはたらきによって、免疫機能が暴走して重症化することがあるのなら、僕らが発見した「脳から神経を通して免疫細胞をコントロールするシステム」によって、重症化を抑えることができるのではないか。
たとえば、指圧やマッサージなどで、末梢神経※6を刺激することによって腸管の炎症を抑えることもできるのではないかとも考えています。古来の東洋医学の知識は、現代の西洋医学から見ても、けっこう当たっているんですよ。

※3 「皮膚—腸相関」:皮膚と腸が、お互いに情報をやりとりして密接にかかわり合っていること。
※4 「肝臓-脳-腸相関」:肝臓と脳と腸が、お互いに情報をやりとりして密接に関わり合っていること。
※5 迷走神経:枝分かれして体の中に広がり、脳と全身の各器官との間に情報を伝える役割をする神経。空腹や炎症などの情報を伝えたり、血圧を下げたり消化を促したりしている。末梢神経のひとつ。
※6 末梢神経:神経は大きく分けて中枢神経と末梢神経がある。末梢神経は、体内の末端まで網の目のように広がり、脳や脊髄など体の中心部にあって指令を出す役割の中枢神経と情報をやりとりする。

「仲間」として腸内細菌とつきあう

では、私たちは、腸内細菌とどのようにつきあっていったらよいのでしょうか?

腸内細菌は「自己」なのか「非自己」なのかという問題があります。
病原菌などは明らかに外敵であり、「非自己」です。ところが、我々の体にすんでいる腸内細菌は、免疫という機能によって、「自己」のように振る舞ってもいいよと認識されている「仲間」なんです。

最近は、健康な人の腸内細菌を、腸の病気の人に移植するという治療法があります。よく効く病気もありますが、多くはなかなかうまくいきません。
我々は、赤ちゃんのときから子ども時代を通して、腸内細菌を自分自身の一部と認識したうえで、自分の腸内細菌のパターンを決めているのではないかともいわれています。ですから、他人の腸内細菌が入っても、それを自己として認めず排除してしまうのかもしれません。
そういう意味でも、子ども時代の食生活や生活環境は、とても大切なのです。

よい腸内細菌を育てる食事が、全身の健康にとても重要です。
そう考えると、昔ながらのぬか漬けなどの発酵食品を日常的に食べることが大切です。発酵食品は、いわゆる善玉菌とそのエサになる食物繊維がミックスされたものですから。
ただ、人間は誘惑に弱い動物です。ケーキを見れば食べてしまう、お酒を見れば飲んでしまいます。そんななかで、どうしたら健康的な生活を楽しくできるかは、大きな課題だと思います。

最新の研究をうかがって、腸内細菌の大切さがあらためてよくわかりました。これからは、おなかの中にたくさんすんでいる腸内細菌を「大切な仲間」として、彼らがいい状態でいられるよう、食生活を中心に、暮らしを見直そうと思います。
お忙しいなか、貴重なお話をありがとうございました。

金井隆典(かない・たかのり)

慶應義塾大学医学部消化器内科 教授
(兼任)慶應義塾大学病院IBD(炎症性腸疾患)センター長/慶應義塾大学医学部長補佐

1988年 慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部助手、清水市立総合病院内科医員、同医長を経て、1995年 ハーバード大学Beth Israel Medical Center, Division of Viral Pathogenesis留学。帰国後の1997年より慶應がんセンター内科助手、東京医科歯科大学医学部附属病院消化器内科助手、講師、慶應義塾大学医学部内科学准教授、東京医科歯科大学医学部臨床教授を経て、2013年より現職。専門は、内科・消化器内科・炎症性腸疾患・消化器がん。

COLUMN コラム

金井先生が研究統括責任者を務める
「コロナ制圧タスクフォース」とは

 2020年5月、金井先生など日本を代表する研究者たちは、「コロナ制圧タスクフォース」という共同研究グループを立ちあげ、金井先生は、その研究統括責任者を務めています。

 いま世界は、新型コロナウイルス感染症の未曾有の危機に直面しています。そんななか、グループの研究者たちは、さまざまな報道や文献から、日本人は欧米の人に比べて、重症化数や死亡者数が少ないということに目をつけ、これは、日本人のもつ遺伝子の違いによる、免疫反応の違いに関係があるのではないかという仮説を立てました。

 そこで、感染者のうち、重症者と軽症・無症状者の遺伝子を比較することによって、重症化しやすい遺伝子の型を調べ、第二波、第三波の医療に、「重症化を予防する」という形で貢献ができるのではないかと考えて立ちあがったのです。

 最終的には、この研究が「ワクチン開発」に活かせるのではないかとの目標もかかげています。

 この力強い挑戦に、国も期待して支援することになり、現在、全国各地の研究者とともに研究に取り組んでいます。多くの医療従事者や研究者が、さまざまな形で、このコロナと闘っていますが、この研究は、遺伝学や分子生物学という新しい観点からの研究として、今後の研究成果に大きな期待が集まっているのです。また、さらに新しい分野での研究の可能性などにも目が離せません。

タスクフォース一丸の取組み

「コロナ制圧タスクフォースの概要」。全国の病院や研究者と協力し、「重症化予防システムの構築」と「独自技術に基づいたワクチン開発」を目指している
画像:「コロナ制圧タスクフォース」HPより https://www.covid19-taskforce.jp

金井隆典氏 慶應義塾大学医学部消化器内科教授

今回は新型コロナウイルス感染予防のため、オンラインにてインタビューを行う

もっと知りたい「腸内細菌」