ヤクルトグループが持続的成長を続けるために、これまで培ってきた生命科学の追究を基盤とした商品開発のさらなる推進や、新たな価値を提供するサービスの創出が必要不可欠だと認識しています。ステークホルダーの声を聴きながら、社会課題の解決に貢献するイノベーションを生み出し、ヘルスケアカンパニーへの進化につなげていきます。
取締役 専務執行役員 研究開発本部長 石川 文保
ヤクルトは20世紀初頭、創始者の代田稔が感染症で命を落とす子どもたちに胸を痛め、病気にかかってから治療するのではなく、病気にかからないようにする「予防医学」を志し、微生物研究の道に入ったことから始まります。その後、乳酸菌に着目し研究を続けた結果、乳酸菌飲料「ヤクルト」が誕生しました。治療医学が主流の時代に、「予防医学」という新しい視点、新しい価値を提供した、まさにイノベーションの創出でした。
私たちはその代田の熱い想いと志を受け継ぎ、ライフサイエンスを追究し、エビデンスを積み重ね、世界の人々の健康で楽しい生活づくりに貢献する商品を提供し続けています。現在では世界40の国と地域で、ヤクルトの乳製品をご愛飲いただき、私どものイノベーションの成果が多くのお客さまの健康に貢献できているのではないかと感じています。
これからも世界の人々の健康に貢献する、という使命を胸に、当社がこれまで培ってきた乳酸菌をはじめとする有用微生物の研究成果の活用や、独自の基礎研究に基づくマイクロバイオームの研究を推進し、外部リソースとの協働等による新しい可能性の追究を継続しながら、世界に山積する健康課題、社会課題の解決につながる商品やサービスを提供していきます。一人でも多くの方の健康に寄与する「新しい価値」を提供し、ヘルスケアカンパニーへの進化を目指します。
ストレス社会といわれる現代においてメンタルヘルスケアが重要視されています。このような状況の中で、腸内細菌研究においては脳と腸の相互作用である「脳腸相関」に腸内細菌が深く関与している(脳-腸-微生物相関)ことが明らかになってきました。当社は「乳酸菌 シロタ株」の腸内環境改善作用の研究をさらに発展させ、脳腸軸を介した機能性の検証研究を進め、対ヒト試験において「乳酸菌 シロタ株」の継続飲用によるストレス緩和および睡眠の質向上作用を実証。本機能性を有する機能性表示食品の開発を進め、研究の実用化につなげました。
高齢者施設を含む、給食利用者の栄養摂取をサポートするため、2020年3月に「ジョア」において栄養を強化するリニューアルを行うとともに、従来品より飲み切りやすい小容量の80mlタイプを新発売しました。また、同年4月には「きになる野菜(125ml)」において、栄養を強化した「1食分のマルチビタミン トマト&赤ぶどう」を新発売しました。
中央研究所は、予防医学の見地からの腸内フローラ研究と、人の健康の維持増進に役立つプロバイオティクス※の研究を活動の柱としています。日本および世界各地の人々の腸内細菌叢の違いや、疾病と腸内細菌叢の関わりなどを解明し、人々の健康づくりに役立てる研究を進めています。
その研究の一つとして、乳酸菌 シロタ株の継続飲用が一時的な精神的ストレスがかかる状況下での「ストレス緩和」「睡眠の質の向上」の機能を有することを確認し、1本(100ml)に乳酸菌 シロタ株を1,000億個含む乳製品乳酸菌飲料「Yakult(ヤクルト)1000」の商品化につながりました。
※
プロバイオティクス:十分量を摂取したときに宿主に有益な効果をもたらす生きた微生物のこと(FAO/WHOによる定義。2002)
腸内フローラ解析システム
「YIF-SCAN®」
乳酸菌やビフィズス菌などの
微生物コレクション
ベトナム保健省国立栄養研究所との共同研究では、ベトナムの幼児を対象に「乳酸菌 シロタ株」を含む乳製品の継続飲用により、便秘および急性呼吸器感染症の発生抑制、下痢の発生が抑制される傾向を確認しました。この結果については、学術雑誌European Journal of Clinical Nutrition(2020年9月28日掲載)に報告されています。