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ニュースリリース

Th17細胞を誘導する腸内細菌を特定
~自己免疫疾患や感染症の予防・治療に期待~

2009.10.16研究開発

 大阪大学本田賢也准教授(JSTさきがけ研究者兼務)、同・新幸二助教、ニューヨーク大学Dan R. Littman教授、同・Ivaylo I. Ivanov博士、ヤクルト中央研究所梅崎良則博士、同・島龍一郎研究員、らは共同研究成果として、腸内細菌のセグメント細菌(Segmented Filamentous Bacteria)が、免疫細胞である「Th17細胞」を誘導することを明らかにしました。この成果は、アメリカの科学雑誌  「Cell」の20091015日オンライン版に速報として掲載されました。

 

1.背景

 Th17細胞とは、免疫システムの中心的役割を果たすT細胞の一種です。特に細菌(例えば緑膿菌など)や真菌(例えばカンジダ菌など)に対する感染防御に極めて重要な役割を果たしていることが知られています。一方でその行き過ぎた応答が、自己免疫疾患である慢性関節リウマチやクローン病や潰瘍性大腸炎などに深く寄与していることも証明され、近年、自己免疫疾患という文脈でも非常に注目されている細胞です(図1)。

 従って、Th17細胞数を人為的に増加させることができれば、感染症の治療に役立つと考えられますし、逆にその数を人為的に減少させることができれば、自己免疫疾患の治療になると考えます。

 Th17細胞は普段から、消化管に沢山存在しています(図2)。逆に言うと、感染・炎症のない通常の状態に於いては、消化管だけがTh17細胞の存在場所であります。大阪大学本田准教授と新助教、そしてニューヨーク大学Littman教授、Ivanov博士らは、消化管にTh17細胞が多数存在するのは、腸内細菌が重要な役割を果たしているためであるという実験結果を得ていましたが、具体的なメカニズムは分かっていませんでした。

 

 セグメント細菌(Segmented Filamentous Bacteria)は、様々な哺乳動物の消化管内(特に小腸)に常時存在する細菌であり、繊維状の細長い形態をし、腸管上皮細胞に密着して生存することを特徴としています(図3)。この細菌はヤクルト中央研究所(所長 澤田治司)の梅崎良則博士や今岡明美博士らによって1994年にマウスやラットの腸内より単離されました。ヤクルト中央研究所では、菌の分離以来、セグメント細菌に関する研究を重ねてきました。そうした長年の研究の中で、セグメント細菌は哺乳動物の免疫システムに強く影響を与える性質を有しているというデータを蓄積していました。

 

2.研究内容

 今回3施設は共同研究により、①セグメント細菌が腸管に存在しているマウス(タコニックファーム社のマウスあるいは日本クレアのマウス)においてはTh17細胞が沢山存在していたが、セグメント細菌を持たないマウス(ジャクソン研究所のマウス)においてはTh17細胞が少数しか存在しなかった(図4)、②セグメント細菌を持たないマウス(無菌マウスあるいはジャクソン研究所のマウス)にセグメント細菌を投与するとTh17細胞が著増した、等の結果を得ました。

 さらにセグメント細菌が存在し、腸管にTh17細胞が多く存在するマウスは、病原性細菌(本研究では、腸粘膜肥厚菌を用いました)の感染に対して高い抵抗性を示すようになるという実験結果も得ました。

 以上のことから、セグメント細菌が消化管のTh17細胞を特異的にかつ強力に誘導する細菌の一つであり、腸管にTh17細胞が沢山存在すると、病原性細菌に対して宿主は強くなるという結論に達しました(図5)。

 

3.今後の展開

 本研究では検討できませんでしたが、セグメント細菌によるTh17細胞の誘導は、例えば遺伝的に自己免疫の素因などをもつ場合には、自己免疫疾患発症や増悪に繋がる可能性もあると考えています(図5)。人の消化管にセグメント細菌が存在しているかどうか、さらには炎症性腸疾患やその他の自己免疫疾患と実際関係があるかどうかについては今後の検討課題です。

 

4.ヤクルト本社にとっての本研究の意義

 ヤクルト本社(社長:堀澄也)では、ヤクルト中央研究所の梅崎良則博士らを通じ本研究に協力しました。

 ヤクルト中央研究所の梅崎良則博士、島龍一郎研究員、今岡明美博士らは、セグメント細菌という常在性の腸内細菌のきわめて重要な役割が解明されたものと評価しています。

 中央研究所所長の澤田治司博士は、「セグメント細菌は、これまでは病気と関係しているとは考えられていませんでした。今後、ヒトにおいて、セグメント細菌あるいは同様の役割をもつ腸内細菌を特定できれば、プロバイオティクスにより腸内のセグメント細菌を調節することで、潰瘍性大腸炎やクローン病などの病気を改善したり予防したりする道が開けることが期待できます。」とコメントしています。

 

本研究は以下の事業・研究課題の一環として行われました。

JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ 

研究領域: 「生命システムの動作原理と基盤技術」(研究総括:中西 重忠)

研究課題名: 可視化を通して解析する消化管粘膜免疫系の誘導維持機構

研 究 者: 本田 賢也 (大阪大学医学系研究科 准教授)

研究実施期間:平成20年度~平成23年度

 

以 上

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