科学の
食中毒の
予防・原因とは?
細菌が原因の食中毒は湿度や気温が高くなる6月から9月にかけて増加しますが、ウイルスが原因の食中毒は冬に増える傾向があるため、食中毒は1年をとおして注意する必要があります。また、食中毒の原因となる菌には、加熱しても死なない菌や、死んでも毒素が残る菌もあるため、付着させないことや増やさないことが重要です。
今回は細菌やウイルスをはじめ、それ以外の原因による食中毒についても、対策や予防方法などを解説していきます。
- 監修
- わだ内科・胃と腸クリニック 院長/医学博士・日本消化器病学会専門医・日本消化器内視鏡学会専門医 和田 蔵人先生
細菌だけじゃない、
食中毒の4タイプ
食中毒は、細菌やウイルスなどを含む飲食物を口に入れることによって、腹痛や下痢、吐き気や嘔吐、発熱などの症状が出る病気です。
食中毒を引き起こす原因としては細菌、ウイルスがよく知られていますが、その他にもさまざまな原因があります。厚生労働省では、主な原因として「細菌・ウイルス」、「化学物質」、「自然毒」「寄生虫」などを挙げています。ここでは、この4タイプに分けて解説します。
細菌やウイルスによる食中毒
食中毒の原因となる細菌やウイルスは、カンピロバクター属菌、サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌、ノロウイルスなどが代表的です。
一般的に細菌は食品の中で増えて食中毒を起こしますが、腸管出血性大腸菌O157のように少ない菌数でも食中毒を引き起こす細菌もあります。一方、ウイルスは食品の中では増えず、ごくわずかな量が口に入るだけで発症します。
化学物質による食中毒
化学物質による食中毒において、代表的なのがヒスタミンによるものです。ヒスタミンは、マグロやサバなどの赤身魚に含まれるヒスチジンというアミノ酸が、細菌のはたらきで変化してできる物質で、アレルギーに似た症状を起こします。また、農薬などの誤混入によって起きる食中毒も、化学物質による食中毒に含まれます。
自然毒による食中毒
自然毒による食中毒は、細菌やウイルスのように食品が汚染されて起こるのではなく、毒を持っている食材を口にすることで起こります。毒の種類には植物性と動物性があり、毒キノコや有毒植物などが植物性自然毒、フグなどが動物性自然毒に分類されます。
寄生虫による食中毒
寄生虫による食中毒は魚介類などに寄生するアニサキスなどの寄生虫が原因になるもので、それぞれの症状はもちろん、症状が出るまでの時間や予防方法も異なります。
夏の食中毒と
冬の食中毒
細菌とウイルスは発生しやすい環境が異なるため、これらが原因の食中毒は、流行しやすい季節も異なります。
気温と湿度が高い時期は細菌が増えやすく、細菌による食中毒は6月から9月にかけて増える傾向にあります。食中毒を起こす細菌はカンピロバクターやサルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌が代表的で、肉の生食や加熱不足、常温での放置がきっかけになります。
細菌性食中毒は気温や湿度が高い時期に増えやすい一方、ノロウイルスによる食中毒は冬季を中心に多くみられます。厚生労働省は、ノロウイルス食中毒の患者の多くが11月から2月に発生するとしており、流行のピークは年によって変動します。
食中毒の代表的な
細菌・ウイルス
黄色ブドウ球菌、サルモネラ属菌、ウェルシュ菌、カンピロバクター属菌、腸管出血性大腸菌(O157など)、ノロウイルス、ロタウイルス、A型肝炎ウイルスといった、食中毒の原因となる代表的な細菌・ウイルスについて、潜伏期間、主な症状、原因になりやすい食品を表にまとめました。
| 病因物質となる 細菌・ウイルス |
潜伏期間 | 主な症状 | 原因になりやすい食品 |
|---|---|---|---|
| 黄色ブドウ球菌 | 0.5〜6時間 | 吐き気、嘔吐、腹痛。下痢を伴うこともある | 加熱後に手作業を経る加工食品 |
| サルモネラ属菌 | 8〜48時間 | 嘔吐、腹痛、下痢、発熱など | 鶏卵、食肉類とその加工品 |
| ウェルシュ菌 | 6〜18時間 | 腹痛と下痢。発熱や嘔吐はほとんどみられない | 食肉、魚介類、野菜を使用した加熱調理食品 |
| カンピロバクター属菌 | 2〜7日 | 下痢、腹痛、発熱、頭痛、嘔吐、吐き気、筋肉痛 | 鶏肉、鶏レバー、消毒が不十分な井戸水 |
| 腸管出血性大腸菌 (O157など) |
主に3〜5日 | 水様性下痢、強い腹痛、血便など。O157ではHUS(溶血性尿毒症症候群)を合併し、重症化することがある | 加熱不十分な食肉、菌に汚染された食品や水など |
| ノロウイルス | 24〜48時間 | 吐き気、嘔吐、下痢、腹痛。発熱は軽度 | 感染した調理従事者が扱った食品、ノロウイルスに汚染された二枚貝など |
| A型肝炎ウイルス | 2〜7週間 | 発熱、全身倦怠感、食欲不振、吐き気・嘔吐など。黄疸を伴うことがある | 汚染された二枚貝などの魚介類、水、感染した調理従事者が扱った食品など |
この中では、ノロウイルスによる食中毒は患者数が多い傾向にあります。2025年(令和7年)は、食中毒患者の約75%をノロウイルスが占めました。ノロウイルスは、症状が治まったあとも通常1週間程度、長い場合には1か月程度ウイルスの排出が続くことがあります。消毒用エタノールによる手指消毒だけでは十分とはいえないため、石けんと流水による手洗いが基本です。嘔吐物や排泄物で汚染された場所は、適切に拭き取ったうえで、次亜塩素酸ナトリウムによる消毒や85℃以上で1分以上の加熱など、ノロウイルスに有効な方法で処理します。
ノロウイルスについては下記の記事に詳しく書かれていますので、こちらもご一読ください。
ノロウイルスとは?|健康管理ラボ by ヤクルト本社
細菌・ウイルスによる
食中毒が起こる理由
家庭で食中毒が起こる背景としては、生の肉や魚からの二次汚染、手洗いや調理器具の洗浄不足、加熱不足、食品の温度管理不良などがあります。
調理器具や手の消毒不足
肉や魚に細菌やウイルスが付着していた場合、生肉や生魚を切った包丁とまな板をそのまま他の食材に使うと、他の食材も汚染されてしまいます。生肉や生魚を直接触った手で冷蔵庫の取手やふきんなどに触れると、それらも汚染されます。
調理時の加熱不足
多くの細菌やウイルスは十分な加熱によって死滅・失活させることができますが、表面だけが焼けていて中心部まで十分に加熱されていない場合などは、食中毒を防げないことがあります。
食材の管理が不十分
十分に加熱して細菌を死滅させることができても、細菌が増えやすい室温で放置しておくと食中毒の原因となります。買ってきた食材を冷蔵庫に入れず、部屋に置いたままにするのも同じ理由で注意が必要です。
中には加熱が
効かない菌も
調理の際には加熱することによって多くの細菌やウイルスを死滅・失活させることができますが、耐熱性の芽胞をつくる細菌や、菌が死滅しても熱に強い毒素が食品中に残る場合があるため、注意が必要です。
食中毒を起こすウェルシュ菌には、100℃で1〜6時間の加熱にも耐える耐熱性芽胞をつくるものがあります。カレーやシチューなどを大量に調理したあと室温でゆっくり冷ますと、加熱後も生き残った芽胞が発芽し、酸素の少ない食品中で菌が増殖しやすくなります。
ウェルシュ菌は43〜45℃付近でよく増殖し、自然放冷などで食品の温度が55℃くらいまで下がると急速に増殖することが知られています。食中毒は、食品中で増えた菌を大量に摂取し、腸管内で芽胞を形成する際に産生されるエンテロトキシンによって起こります。そのため、調理後は早めに食べるか、小分けして速やかに冷却・冷蔵し、再加熱する場合は十分に加熱することが重要です。
一方、加熱では毒素が消えない菌も存在します。黄色ブドウ球菌は、食品の中で増える過程でエンテロトキシンをつくり出します。エンテロトキシンとは、腸に作用して異常な反応を引き起こす毒素です。
黄色ブドウ球菌自体は熱に弱く、加熱によって死滅させることができるのですが、エンテロトキシンは熱に強いため、通常の加熱調理では分解させることができません。黄色ブドウ球菌については、毒素をつくらせないこと、つまり菌自体を付着させない、増やさない対策が重要です。
細菌性・ウイルス性の
食中毒を防ぐには?
厚生労働省は、細菌による食中毒を防ぐために「細菌性食中毒予防の3原則」を示しています。細菌を食べ物に「つけない」、食べ物に付着した細菌を「増やさない」、食べ物や調理器具に付着した細菌を「やっつける」の3つです。
細菌は食品に付着したあと、食品中で増殖することで食中毒につながることがあります。一方、ウイルスは食品中では増えないため、ウイルス性食中毒の予防では「増やさない」は当てはまりません。特にノロウイルスは、ごくわずかな汚染でも食中毒を起こすことがあります。
そこで、厚生労働省では「ウイルス性食中毒予防の4原則」として、ウイルスを調理場内に「持ち込まない」、食べ物や調理器具にウイルスを「ひろげない」、食べ物にウイルスを「つけない」、付着してしまったウイルスを加熱して「やっつける」の4つを示しています。
細菌とウイルス、どちらにも効果的な対策が手洗いです。調理を始める前、生肉・生魚などの食材を扱った後、食事の前、トイレの後は必ず手を洗いましょう。
家庭でできる
6つの食中毒対策
厚生労働省は、家庭での食中毒予防を「食品の購入」「家庭での保存」「下準備」「調理」「食事」「残った食品」の6つのポイントに分けて、リーフレットPDFやYouTubeで紹介しています。
食品の購入
消費期限を確認して購入し、買った肉や魚はそれぞれ分けて包み、汁が漏れて他の食品につかないようにします。冷蔵や冷凍が必要なものは買い物の最後に回します。
家庭での保存
持ち帰ったらすぐ冷蔵庫か冷凍庫に入れ、詰めすぎに注意します。冷蔵庫は10℃以下、冷凍庫は-15℃以下を維持できるようにしましょう。購入時と同じく、肉や魚の汁が他の食品につかないようにします。
下準備
こまめに手を洗い、生の肉や魚の汁が生で食べるものにかからないようにします。また、ゴミもこまめに捨てるようにしましょう。
生の肉や魚を切った包丁とまな板は、洗ってから熱湯をかけて使います。冷凍品の解凍は冷蔵庫か電子レンジで行います。
調理
調理の際は食材を十分に加熱します。中心部の温度が75℃で1分間以上が一般的な加熱の目安です。
なお、ノロウイルスに汚染されているおそれのある二枚貝などは、中心部85〜90℃で90秒間以上の加熱が目安です。調理を中断する際は、室温に放置せず、冷蔵庫に入れます。また、調理の際にも手を洗うことを忘れないようにしましょう。
食事
食事の前にも手を洗い、調理前後の食品を室温に長く置かないようにします。
残った食品
残った食品は浅い容器に小分けすることで早く冷えるようにし、温め直すときは十分に加熱します。時間が経ちすぎたもの、少しでもあやしいと思ったものは口に入れずに捨ててください。
腹痛や下痢、嘔吐などの症状が出たときは、脱水を防ぐためにしっかりと水分を摂り、自己判断はせず医療機関に相談してください。
ノロウイルスによる胃腸炎では、止しゃ薬(いわゆる下痢止め)は病気の回復を遅らせることがあるため、使用しないことが望ましいとされています。市販薬を使用する場合も、自己判断を避けて医師や薬剤師に相談してください。
細菌・ウイルス以外の
食中毒
寄生虫や化学物質などによる食中毒の対策は、細菌やウイルスによる食中毒とは異なります。アニサキスやクドアなどの寄生虫は定められた条件での加熱や冷凍によって予防できます。一方、ヒスタミンのように加熱しても分解されにくい化学物質や、通常の加熱では十分に減らせない自然毒もあるため、原因物質に応じた対策が必要です。
寄生虫による食中毒でもっとも多いのがアニサキスです。サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなどの内臓に寄生する線虫で、魚が死亡すると内臓から筋肉へ移動する性質を持ちます。幼虫は体長2~3cm、幅0.5~1mmほどの白い糸のように見えます。アニサキスによる食中毒をアニサキス症と言い、胃や腸に入り込んだアニサキスが胃壁などの粘膜に入り込もうとすることで痛みなどを引き起こします。有効なのは冷凍と加熱で、マイナス20℃で24時間以上の冷凍、または中心温度60℃で1分以上加熱することで死滅します。
アニサキスについては下記の記事に詳しく書かれていますので、こちらもご一読ください。
アニサキスとは?|健康管理ラボ by ヤクルト本社
クドアはヒラメに寄生する寄生虫です。クドアが原因の食中毒は生食用の生鮮ヒラメによるものが多く、症状は一過性の嘔吐や下痢と、軽症で終わるのが特徴です。マイナス20℃で4時間以上の冷凍、または中心温度75℃で5分以上の加熱によって食中毒を防ぐことができます。
化学物質のヒスタミンによる食中毒は、マグロ、カジキ、カツオ、サバ、イワシ、サンマ、ブリ、アジなどの赤身魚とそれらの加工品で起こり、アレルギーに似た症状が出ます。ヒスタミンは加熱などで分解することはできません。
魚を買ったあとは常温に置かず速やかに冷蔵するようにし、ヒスタミンをつくりだす菌が多いエラや内臓を早めに取り除いてください。口に入れたときにいつもと違う刺激を感じたら、食べずに処分しましょう。
じゃがいもの芽や、特に緑色になった皮の部分には、ソラニンやチャコニンという天然毒素が多く含まれます。これらは植物性自然毒の一種で、吐き気や下痢、嘔吐、腹痛、頭痛、めまいなどの症状が出ることがあります。ソラニンやチャコニンは170℃以上で分解を始めるとの報告がありますが、通常の加熱調理で確実に減らすことは期待できません。芽は根元を含めて完全に取り除き、緑色になった部分は皮を厚めにむいてください。苦みやえぐみを感じた場合は、食べるのをやめてください。
植物性自然毒を持つ毒キノコによる食中毒は、夏の終わりから秋にかけて増える傾向にあり、ツキヨタケやクサウラベニタケによる食中毒が特に多く発生しています。また、イヌサフランやトリカブト、スイセンなどの有毒植物による食中毒も、春先から初夏にかけて多く発生しています。これらは見分けるのが難しいため、食用と確実に判断できないキノコや植物は、採らない、食べない、売らない、人にあげない、が原則です。
動物性自然毒による食中毒で代表的なのは、フグによるものです。フグ科の魚はテトロドトキシンという猛毒を持ち、一般に肝臓、卵巣、皮の毒力が強く、食用にできる種類と部位が定められています。また、有毒部位の除去は都道府県知事などが認めた人と施設に限られているため、素人判断による調理は行わないようにしましょう。