気候変動の緩和と適応
マテリアリティ
ヤクルトのアプローチ
ヤクルトグループは、バリューチェーン全体で多くの温室効果ガス(GHG)を排出していると認識しています。さらなる省エネ推進や再生可能エネルギーの積極的導入などで自社における温室効果ガス排出削減を進めていくとともに、取引先や地域社会等とも連携しバリューチェーン全体での排出量削減も進めていきます。
主な取り組み
- 省エネ活動の推進
- 再生可能エネルギーの積極的導入 など
ヤクルトグループ環境ビジョン
世界では、気候変動問題をはじめとする、さまざまな環境問題が深刻化しています。ヤクルトグループは世界40の国・地域に展開しており、現地生産・現地販売を基本とした事業活動を推進していますが、それはいいかえると、世界各地の社会や環境にプラス面だけではなく、マイナス面も含め影響を与えているということと認識しています。
ヤクルトグループは、地球環境へのマイナスの影響を減少させ、プラスの影響を与える取り組みを推進していくために、2021年3月、人と地球の共生社会の実現を目指す「ヤクルトグループ環境ビジョン」を策定しました。2050年のあるべき姿として「環境ビジョン2050」を定め、バックキャスティング思考に基づいたマイルストーンも策定して、実効性のある取り組みを推進していきます。
取り組み事例
TCFD提言に基づく情報開示
当社は、TCFD提言※1への賛同を2022年8月に表明しました。ヤクルトグループの事業活動について「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」、「国際エネルギー機関(IEA)」が示すシナリオを参照して複数の気候シナリオ※2に基づく分析を行い、気候関連リスク・機会への対応の検討、将来に備えた具体的取り組みを推進しています。
- ※1 TCFD提言:2015年に金融安定理事会によって設立された国際的組織であるTCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)が2017年に発表した提言。TCFD提言(最終報告書)では、気候関連のリスクと機会について情報開示を行う企業を支援することを表明しており、情報開示方法として、複数の異なる条件でのリスク・機会への対応戦略を分析する「シナリオ分析」を推奨しています。
- ※2 【1.5℃シナリオ】
IPCC SSP1-1.9シナリオ:パリ協定の目標である1.5℃目標に整合する、最も排出量が抑えられるシナリオ
IEA NZE(ネットゼロシナリオ):2050年までにネットゼロを達成することを想定したシナリオ
【4℃シナリオ】
IPCC SSP5-8.5:経済成長を最優先し、化石燃料への依存が続くことで、約4℃の気温上昇が見込まれる最も排出量が多いシナリオ
IEA STEPS(公表政策シナリオ):NDCや長期ネットゼロ目標を含む、各国政府の気候変動関連の公約に基づいたシナリオ
生産・販売部門でのCO2削減の取り組み
本社工場やボトリング会社では、CO2排出量の削減に向けて、照明設備のLED化および製造・生産設備の効率的な運転方法の策定により、運転時間を削減して電力消費量の削減につなげています。
販売会社のヤクルトレディが使うお届け車両も、CO2排出量削減を目的とした電気自動車を導入しています。
岡山和気工場のソーラーパネル
電気自動車
グループ国内全生産工場の電力をCO2フリー電力へ
さらに、2024年1月から稼働開始となった富士小山ヤクルト工場において、契約先の電力会社が提供する再生可能エネルギー由来電力にすべて切り替えたほか、岡山和気ヤクルト工場で708kWの太陽光発電設備を増設し、既存設備310kWと合わせて、メガワットクラス(1,018kW)の太陽光発電設備となりました。
その結果、本社工場・ボトリング会社のCO2排出量は、2018年度比で65.7%減となっています。
- ※集計範囲:ヤクルト本社(福島工場、茨城工場、富士裾野工場、富士裾野医薬品工場、兵庫三木工場、佐賀工場、湘南化粧品工場、特定荷主を含む)、ボトリング会社(岩手ヤクルト工場、千葉ヤクルト工場、富士小山ヤクルト工場、愛知ヤクルト工場、岡山和気ヤクルト工場、福岡ヤクルト工場)
- ※2025年3月31日時点
Pick Up!
担当者に聞きました
電動トラックの導入で環境に配慮し、従業員の健康を守る(広州ヤクルト)

電動トラックの導入で環境に配慮し、従業員の健康を守る(広州ヤクルト)
中国では、CO2排出量削減や大気汚染対策のため自動車の排気ガス規制が厳格化される中、広州ヤクルトでは2018年から電動トラックの導入を推進しています。担当者が、これまでに直面したさまざまな課題を中心に取り組みを紹介します。
中国の大気汚染対策をリードする都市、広州
中国広東省の州都である広州は、北京、上海に次ぐ中国第3の都市です。貿易が盛んな地域として、日系企業も数多く進出しています。また、深刻な大気汚染が報じられることも多い中国の中で、積極的に環境対策に取り組み、2013年度比でPM2.5は58.5%減り、二酸化窒素は44.2%減少(3年連続目標達成)し、中国の中心都市の中では優秀な数値を維持しています。
市内を走る電動トラック
| 空気汚染物質 | 広州市 (2022年) |
1級基準 | 2級基準 | 補足 |
|---|---|---|---|---|
| PM2.5 | 22㎍/㎥ | 15㎍/㎥ | 35㎍/㎥ | 毎日基準値をクリア、国家中心都市の中で優秀な数値を維持。2013年との数値比較では58.5%の減少 |
| PM10 | 39㎍/㎥ | 40㎍/㎥ | 70㎍/㎥ | 毎年数値が減少しており、2013年比で45.8%の減少 |
| 二酸化窒素 | 29㎍/㎥ | 40㎍/㎥ | 40㎍/㎥ | 3年連続で目標を達成。2013年比で44.2%の減少 |
| オゾン濃度 | 179㎍/㎥ | 100㎍/㎥ | 160㎍/㎥ | 毎年の数値が増減、2013年と比べて14.7%上昇 |
| 二酸化硫黄 | 6㎍/㎥ | 20㎍/㎥ | 60㎍/㎥ | 毎年比較的に低い基準で推移しており、かつ減少傾向。2013年比で70.0%の減少 |
| 一酸化炭素 | 1.0mg/㎥ | 4.0mg/㎥ | 4.0mg/㎥ | 毎年比較的に低い基準で推移。2013年比で33.3%の減少 |
電動トラックの導入により排気ガスを削減
中国は、2030年までにGDP当たりのCO2排出量を2005年比で65%削減、そして2060年までにカーボンニュートラル実現の目標を掲げています。この目標の達成に向けて、自動車の排気ガスへの規制は厳しくなる傾向です。特に、ディーゼルトラックへの規制は厳しく、一部の都市ではトラックの通行も規制されるようになりました。ヤクルトにとっては、工場で生産した「安全・安心」な商品を新鮮な状態で直接お客さまのお手元や店頭にお届けすることは世界共通の事業の柱です。特に亜熱帯に位置して高温多湿な気候の広州では、冷蔵トラックの使用は欠かすことはできず、2018年ごろから政府の排気ガス規制が事業にも影響を及ぼすようになってきました。このため、広州ヤクルトは、電動トラックの導入を進めてきました。電動トラックの価格はディーゼルトラックと比較して3~4割程度高額ですが、中国政府は電動車の普及のために補助金制度を設けており、広州ヤクルトの電動トラック導入にも約5%の補助(2021年当時)がありました。
充電中の電動トラック
選択車種の制限の他に、故障やトラブルの多発も
電動トラックの導入を始めた2018年当時は、まだ業務に適した車種が少なく、リース形式で大型車を採用しました。しかし、大型車の運転に必要な免許を取得している社員が少なく、配送ルートの設定や業務手配の面で苦労しましたし、故障やトラブルも数多く発生しました。日々の業務の中で、車両の運用方法の見直しや、部品の改善などをリース会社に伝えるうちに、徐々に故障率が減少し、トラブル発生時の対応もスムーズになっていきました。しかし、電動トラック導入から3年たっても、リース契約では大型車以外の選択肢がなく、運転者の確保やコストの高さなどの課題は解決できず、2021年には業務内容に合わせた電動トラックの直接購入に方針を転換しました。
電動トラックの導入におけるもう一つの大きな課題が、充電スタンドの設置です。広州ヤクルトでは、最大で60kwクラスの急速充電機を設置していますが、2台同時に接続するとフル充電までに5~6時間が必要です。電動スタンドはフル充電になると自動的に電力供給がストップする仕組みとなっていますが、万が一のことを考えて、必ず社員がいる時間帯に充電することにしています。また、フル充電しても実際に運用できる航続距離は最大で150km程度で、市内配送での運用には適していますが、郊外への配送には不安が残ります。
充電スタンド
政府の支援で電動車の普及が拡大。業務にあった車種の購入が可能に
2018年当時は、電動トラックを導入する企業は少ない印象でしたが、この5年間に政府の環境対策による支援もあり、急速に普及したように感じています。今では、広州市民も電動トラックが走る様子を自然に受け止めているようです。
電動トラックは、ガソリン車とディーゼル車に比較して車両価格も高く、充電スタンドの設置が不足しているという課題も残っています。一方で、最近は軽油を含むガソリン価格が高騰しており、運用コスト面でもディーゼルトラックと同等またはそれ以上のコストメリットも生じるようになりました。またスムーズな加速なども運転者からは好評です。
電動トラック導入による最大の効果は、環境負荷の軽減です。広州市で電動車がさらに普及し大気汚染の状況も改善されれば、人々の健康を守ることにもつながるため、今後も広州ヤクルトが率先して導入を推進していきたいと考えています。
担当者のコメント

広州ヤクルト株式会社
営業企画部推進課
盧曼麗
※所属先、役職は取材当時
担当者のコメント
CO2排出量の増加による世界的な気候変動が自然の生態系に一連の影響を与え、私たちの身近な生活環境、経済、さらに社会問題にまで発展することを懸念しています。
個人的にも、節電や節水など身近に取り組めることから環境保護の活動を始めることで、大気汚染の改善と生態系の悪化を遅らせることにつながると考えています。